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美術サロン

  

私の絵画論   - 喜田 祐三 -

シドニーの窓から

私はいつも小さなスケッチブックと色鉛筆をポケットに忍ばせて歩きます。旅する先々で、電車や飛行機の中で、レストランで、街行く人々の姿を眺めて、場末の飲み屋で、、、。電車の中で向かいに座っている女性の顔を素早くスケッチしました。風に吹かれるコスモスの花をずーっと眺めていました。駅のホームから長く伸びた線路と鉄塔と電線の交叉が面白くてホームに1時間も立っていました。このように素描の題材は何処にいても私の周りに溢れているのです。「感動は屑篭の中にも見つけられる」と私の先輩(日立OB美術会)が教えてくれました。私はこの言葉は作品制作の原点だと思います。

さて、私には手法とか理論とか言うほどの大げさなものは何もありませんが、40年も描き続けていますと私なりに何かは会得できます。これは他人から教わったことではなく、自分が苦労しながら経験から会得したものです。皆様の役に立つかどうかわかりませんが、以下に思いつくままに列記してみます。

(1) 絵は写生であってはなりません。制作です。写生は対象を忠実に技術で再現するもの、一方、制作は対象を一度自分のフィルターを通したあと自分の個性で再表現するものです。ですから、作品には自分の個性が強く表現されていなければなりません。

(2) 対象物をよく観察してその本質を自分なりに解釈してから描きはじめます。キャンバスに向かったら、すぐに描き始めるのではなく、よく対象物を見てよく考えてから着手しましょう。

(3) 描く対象の中心を定めて、そこに意識を集中して描きます。ほかの部分は主役を盛り上げる脇役に過ぎません。

(4) 対象を大きな固まりとして捉えましょう。細かいところは大切ではありません。

(5) 絵の具は大量に使います。そして、絵の具がキャンバス上で乾いたらストリッパーかシンナーで削って大量に捨てます。捨てた後のキャンバスには味わいという様々な思いが宿ります。

(6) 上手に描こうとか、人に誉めて貰うとかの気持ちを捨てて自分の絵を元気よく描きましょう。

(7) 喜びも悲しみも苦しさも自分の持つ全てのエネルギーをキャンバス上に注入します。苦しんで描いた絵にはそのときのエネルギーが宿り絵を強くします。

(8) 太い筆を勢いよく使います。細い筆をチョコチョコ使わないようにしましょう。筆の跡(マチエール)は画家の心であると心得ましょう。

(9) 写真を見ながら絵を描いてはいけません。写真から描いた絵は作品から勢いと面白さが失われます。アトリエで制作するなら写真でなくスケッチを基にして制作しましょう。

(10) 技術のみで描いたいわゆる上手な絵はすぐに飽きてしまいます。作者の主張や意思が見える骨太で元気で面白い絵がすばらしいと思います。

 

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