「思い出―私の絵の原風景」 -伊藤 健-
小学校五年生の夏のことです。夏休みの図工の宿題で近所の風景を水彩で描きました。それが、我ながらびっくりするほど上手く描けて家族にも褒められました。
そのまま提出したらきっと兄や姉に手伝ってもらったと先生やみんなに思われる、と心配になってきました。それを聞いた母は、「これは本人が一人で一生懸命描いたものです。云々」のメモを書いて絵の裏に貼り付けてくれました。
秋の全校作品展に張り出された自分の絵の裏を返すとそのメモが付いたままでした。
恥ずかしくなって、ひとに見られないように急いではがしました。
六十余年前の晴れがましくもほろ苦い、鮮明な想い出です。
あの時の絵を超える作品(自信作)をその後描いておりません。
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