私の絵画論
「時 空」 - 黒岩 裕介 -
第41回日展に初出品し、はからずも入選したお蔭で何か書けと「私の絵画論」の貴重なスペースを頂いたものの、絵画論には程遠くて恐縮だが思う侭に綴ってみた。
作品は「時空」と題した100号油彩で、モチーフは4年前に旅した南仏プロヴァンス地方アルルに残る紀元1世紀ローマ時代の円形闘技場遺跡である。これはフランス最大の闘技場遺跡で、建設時三層あった天井が崩れ日がさし込むのはここが世界唯一だそうである。作品は闘技場の回廊の中に足を一歩踏み入れた時の強い感動を表現したもので、遺跡の造形物一つひとつに悠久の時の流れと高所にさす光に無限の空間を感じ、古人の時空を超えた偉業に畏敬と感謝の念を抱きつつ制作した。
制作にあたって、自分の感動を伝えるために特に注意した点は、今から考えると先の小論「抜けない空」に貴重な意見を頂いたAさんの主張と同じく(1)絵の焦点を明快にすること。即ちこのモチーフの高層部にさす光を意識すること。(2)絵の広がりを考えること。即ち列柱の横への広がりと天井の高さを十分に表現すること。(3)モチーフの歴史の重みと荘重さを表現するグレーの色調の美しさに留意することなどであった。
制作の過程では、絵の焦点を意識する余り、光を強調するために周囲の明度を下げすぎて、絵全体の調子が暗くくすんでしまい、絵も小さくなってしまうという失敗もした。やり直して元の調子や広がりが出たのは幸いだったが、この外には大きな迷いも停滞も無くスムーズに仕上がったのは不思議であった。
入選できたのは、個性的なアングルのモチーフと、絵が暗すぎたり重くなったりせずにグレーが生きていたからだろうと思っている。また難しい絵であれば労多くして実り少ないこともあり、絵のモチーフや構成の良し悪しはその作品の出来を殆ど決めてしまうことも改めて実感した。その意味で今回のモチーフに巡り会えたのは幸運であった。
日展応募のきっかけは、8年前に油絵を始めた時に筆を擱くまでにせめて1回でも日展に応募できればと思っていたが、前回のミニ解説会で日展作家が身近になったこと、傍に日展にチャレンジしている仲間がいたこと、市展や県展への初挑戦を通して多くの人と出会ったこと、加えてこのモチーフ即ち戦える剣を得たことが大きい。そして3回の研究会や日常の指導を通してその意を固め得た訳で、よき指導者と体制に恵まれ、感謝してもし切れない。
入選して、私がそうであったように、日立OB美術会はじめ油絵教室や団体の仲間に、日展を身近に感じた、今後の励みになったと多くの方に言って頂いたことが大変嬉しかった。
その言葉をまた私の励みとして今年も日展にチャレンジしてみたい。
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