日立美術会
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陳列委員の眼「第45回OB展を陳列して」  
陳列委員 / 喜田祐三

「1」 陳列の考え方
過去10回(第35回〜第44回)の陳列データを踏まえて、今回はすこし新しい考え方を導入して陳列をおこないました。すなわち、1階から4階に向かって、基本的には年齢順の陳列を試行してみました。
1階は人生の大先輩である「OB会の長老(大正7年〜昭和3年生まれ)」、2階は「昭和3年〜昭和9年生まれ」、3階は「昭和9年〜昭和14年生まれ」、そして4階はOB会の若手「昭和14年〜昭和23年生まれの若者(?)」としてみました。
会員の年齢分布を調べてみましたら、昭和12年生まれ(72歳)が現時点でOB会の中心であり、年齢分布が美しい正規分布になっていることを発見しました。
ちなみに、会の最年長者は中村前会長(91歳)、そして最年少者は堀内利子氏(昭和23年生まれ)であることも分かりました。年齢順に決めた陳列階のそれぞれの階の中では作品の種類(油、水彩、日本画、、、など)、表現形式(写実、具象、抽象など)、モチーフ(風景画、静物画、人物画、ヌード、など)により最適の配置となるようにしました。

「2」 印象に残る作品の数々
陳列作業は大変な重労働ですが、良いこともあります。陳列作業を行いながら全ての作品をじっくりと眺めることができることです。その結果として最適な配置もできるようになります。今回の展覧会の特徴は
@ 過去最多の出品者(102名)
A 過去最多の出品点数(123点)ということのほかに
B 精鍛こめた力作が目立って多かったということだと思います。
陳列委員の眼から印象に残った作品の数々をピックアップしてみたいと思います。

(1)1階(最年長グループ、16名)
土屋久一氏「チロルへの道」(油彩)
(スイスの田舎の教会、雪のアルプス、赤い屋根の民家、緑豊かなスイスの田園の気持のよい作品です)
  山本 衛氏「パリの花市」(油彩)
(いつも思うのですが、山本さんの色彩感覚とタッチの思い切りの良さに驚かされます。今回は晩秋のパリの花屋の店先を独特のタッチで描きあげました。)
  横田一郎氏「東京の屋根の下」(油彩)
(病室の窓から眺めた大都会を造形化して制作した作品です。描く人が描けば東京のアスファルトジャングルもこんなに魅力的な作品になるのですね。)
  中村高章氏「ホリデー好日」(油彩)
(葉山あたりのヨットハーバー、週日は閑散としていて、岸に引き上げられたヨットと少年が一人、穏やかな光を受けた好日の感じが素晴 らしい)
  加瀬熊秀夫氏「シュリーシュルロワール城(フランス)」(水墨)
(水墨画でヨーロッパの城郭を精細に描く。作者が新たに確立した新境地です)
(2)2階(後期高齢者、28名)
  沢野 進氏「烏鎮風景」(アクリル)
(色彩の乏しい中国の運河風景をアクリルを使って暖かいパステルカラーで表現しました。ゆったりと時間が流れ、鼓弓の音が聞こえてくる空間を感じます)
  建脇 勉氏「建てる‘09」(油彩)
(ここ3年関、追及しているテーマ、色彩とマチエールに磨きがかかりました。特に背景をなす建物と空の表現が格段に良いと思います)
  長谷見次郎氏「こぶしの花咲く能登の漁村」(油彩)
(暖かくて気持ちのよい作品です。春の漁港は水温み漁船は快活、里にはこぶしの花が咲き乱れます。素直で謙虚でそれでいてしっか りとした強さがある)
  竹尾和代氏「夏の庭」(油彩、クレヨン、他)
(何の変哲もない「我が家の夏の庭の一隅」をこんな面白い作品に仕上げる作者の才能に敬服します)
  山田徳太郎氏「轍・旋律」(水彩)
(轍の軌跡にこだわり続ける作者は構図からすべての色彩を取り去り、そこに残る形状の本質に精神を集中させてここまでたどり着きました)
  松永徹也「散歩道のカフェ」(水彩)
(カフェの周りの木々を透かして注ぐ光と風。カフェの内部の憩い、コーヒーの香りが作品を観る者に届くような気持のよい作品です)
  川村善明氏「三宝寺池(石神井公園)」(油彩)
(オーロラを描いた昔の作品から、こんなに穏やかな秋の三宝寺池への飛躍が面白いです。池の向こうの木々の紅葉と水面、近景のすすきのバランス)
(3)3階(準若者(前期高齢者)、28名)
  早川昭夫氏「樹根」(日本画)
(日本画でこれほど追求したマチエールを私はこれまで見たことがありません。気持ちを作品に塗り込んでいく強さは比類がない)
  富永哲夫氏「春日」(パステル)
(春の光に浮き出る卓上の壺と花、斜めに倒されておかれた卓上の瓶が作品を引き絞めました。画面の中心に見る者の気持ちを引き込みます)
  金子一郎氏「錦秋の涸沢カール」(油彩)
(50号の画布の中央に大きく紅葉の涸沢カールだけを描いた。この作品も追及度で並外れています。空の色を工夫するともっと素晴らしい)
  城戸 宏氏「裸婦09」(油彩)
(卓上の2本の瓶、ソファ、カーテン、など背景がこの絵を面白く味付けしました。椅子に掛けた裸婦は弱よわしく、僅かなデッサンの狂いが面白い)
  所澤和廣氏「裸婦」(油彩)
(床に妖艶なポーズで横座りする裸婦。床のカーペットの模様、背後の大きな壺に投げ込まれた黄色い花、全体の要素で一枚の絵が面白く仕上がった)
  粕谷栄治氏「那須高原」(油彩)
(氏の作品で一番好きな作品です。晩秋の那須高原は100色を超える色彩の紅葉、ススキ野原と山裾の林、紅葉と秋晴れ空を強烈な気持ちで描いた)
  若狭孝治氏「春に備える」(油彩)
(収穫後の水田はさびしい。氏の最も得意なモチーフです。寂しさの中にある来春への「待つ心と希望、喜び」がうまく表現されたと思います)
  高橋知福氏「デカンタ」(水彩)
(ある意味で本展覧会の全作品中で私が最も感動した作品です。絵は人なり、と言いますが作者はなぜ、こんなに純粋で表現力が豊かなのでしょうか)
  二村邦子氏「9月のメロデイ」(アクリル、パステル、鉛筆、他)
(いろいろなモジュールの配置と結合、そして、色彩とタッチの中に表現力のすべてをたたき込むエネルギー、ますます成熟してきた作品です)
  堀内利子氏「編み物をする婦人」(油彩)
(編み物をする普段着の女性を力強く表現しました。婦人の表情も編み物をする手つきも力強い)
(4)4階(最若年の30名)
  松本行夫氏「初夏の長良川川辺」(油彩)
(何の変哲もない平凡な作品なのですが、渡良瀬川河畔に広がる都市の風景が気持よく魅力を感じます。色彩もタッチも穏やかでバランスが良い)
  源馬和寿氏「碇泊」(油彩)
(碇泊して荷下しする貨物船を真後ろから描いた作品です。構図の面白さと鋼鉄船の質感、船橋の白の深み、錆びた煙突などが作品を魅力的にした)
  徳永久子氏「コロンビア大氷原(カナダ)」(油彩)
(独特の表現法はどこから生まれたのでしょうか。霧を透かして見るようなあいまいな形状と色彩、独特のマチエール、しかし、とても安定している)
  矢野賀彦氏「梅雨を待つ」(油彩)
(どこの田舎でしょうか。カラ梅雨のもとで田植えされた青々とした田圃は本格的な梅雨の到来を待っています。たくさんの緑が描き分けられていい)

ここにピックアップした作品以外にも良い作品がたくさんありました。
絵画は人間性を照らし出す鏡である、と云います。真面目に精鍛こめて描いた作品はその手法が何であれ、画面には作者の人間性が色濃く映し出されます。そして、そのような作品は観ていて気持ちがいいのです。
日立OB美術会展はそのような作品が多いと来館者の多くからのメッセージがあります。

以上

 

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