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展覧会

野に棲むあるじたち「立見榮男洋画展」を観て
  - 喜田祐三 / 陳列委員会 -

去る、8月5日から1週間、立見榮男の企画展が日本橋三越本店特設画廊で開催された。私は3日目に見学させていただいた。強い感動を覚えたのでその時の印象を綴ってみたい。

F6号「河童光琳図」
広い会場には正面に飾られた2点の大作(200号)がまず私達を迎えてくれる。1点は「雷神」、他の1点は「竜神雷神逍遥」である。
その横には「河童華々」「雨中降雷・花と獣」「雷神・桜が咲いた」「普賢童子」「雷神・光琳図」「河童遠望」「逆立ち童子・光琳図」「雷神花鳥図」「河童・光琳図」と斬新で清冽な作品が40点ほど並ぶ。
これらのタイトルからも分かるように立見榮男は古来、日本で親しまれてきた風神、雷神、河童、野に咲く草花、鳥、など「野に棲むものたち」を永く描き続けてきた。
この時間の経過の中で立見榮男が自ら生み出した「愛すべき新しきあるじたち」を友連れとして「野に棲むあるじたち」を独特の造形美と意匠美で表現し、新しい洋画形態を完成させた。
建脇勉氏も指摘しているように立見榮男は「琳派」の流れを洋画に展開して立見榮男独自の新しい表現法を醸成させて新境地を拓いたと思う。

日本では桃山時代(16世紀)に俵屋宗達が斬新なデザイン感覚の造形芸術を興した。そして、約100年を経て元禄時代(17世紀)に尾形光琳が宗達を継承した意匠美を完成させた。
のちにいう「琳派」の誕生である。その後、さらに100年を経て酒井抱一が 情緒豊かな後期江戸琳派を拓くことになるが、立見榮男の世界は洋画と日本画 の壁を越えて洋画の世界に日本画の伝統である「琳派」の流れを融合し再構成 したものである。
「琳派」のひとつの特徴は「光琳雛形」とか「光琳模様」といわれ、絵画性と 意匠性を高次元で融合して完成させた装飾芸術である。これを構成する「琳派 模様」には、梅、菊、松、桐、水紋、などの他に、鴨類、鷺類、孔雀、鳩類、 鴫類(しぎ)、四十唐、頬白など多くの「鳥」の造形がある。

立見男榮が独自に創造した造形模様は色々あるが、今回の企画展を観て、立見榮男の代表的造形模様として「白いきつね」「うしろ姿の河童」「赤いもくれん」「逆立ちする少年」「飛翔する白い狼」「赤の椿」「外国人の顔を持つ雷神・風神」「さくら花」「少年の顔をした雷神」「鳩」「白色の象」「猿らしき獣」「八つ手の葉」などがある。これらの愛すべき「野に棲むあるじたち」が形を変え、品を変えて次々と絶妙なコンビネーションで作品に現れ、画面を構成するのである。

立見榮男のさらに新しい試みのひとつは1枚の作品を多次元の世界に分割してシナジー効果を引き出したことである。分割された個々の領域はそれぞれが造形模様を組み合わせた1枚の完成された絵でありながら、構成する複数のセクター(領域)が相互に響きあいながら、より大きなエネルギーを一枚の画布に生成させている事である。
これらの新しい表現法は作品を観る者の心に自由な発想と想像を駆り立て、さらに観る者の立場や考え方や個性にあわせて色々なメッセージを伝えてくれるのである。

会場を出た私はしばらくの間、会場の外のソファーに深く腰をおろして興奮が醒めるのを待たなければならなかった。

 

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