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リレー随筆 第11回  

私の描きたい風景 - 松岡 濶 -

現在私は勝美会という風景画のグループ(会員約30人)に入っている。このグループは、月に2回の写生会を行なっている。写生地は月毎に会の幹部が決めたり、全員から意見を聞いたりして選定するが、同じ写生地で2回づつの写生を行なう。入会したばかりの頃は、2回の時間を使用して1枚の絵を仕上げていたが、この頃は1回の写生会と家で手を加えることで、ほぼ毎回1枚づつのペースで絵が作られてゆく。

同じ写生地と言ってもその中のいろいろな場所で、いろいろな方向を見て描けるから、何を描くかにある程度の幅があるのは当然であるが、描ける題材は限定される。時には、描きたい気持ちが、湧いて来ないにも関わらず、その写生地の中で何かを描かなければならない。そのようなとき、自分の描ける分野の幅を広げるためにも、「何事も修行なのだから」と思い、私はやっている。(他の会員も同じだと思う。)また、最初、あまり気乗りしない風景でも、描きはじめて、だんだん気分が乗って来ることも多い。

こんな事の繰り返しを重ねて来ているわけだが、これを振り返ってみる傾向として自分はどのような景色の絵を描きたいのだろうか? 以下に整理してみる。

風景のバックに山がある。それも雪のある山ならなお良い。中景や、近景には、林、人家、田畑などがある。そんな風景が自分には一番描きたい意欲が湧く。これは理屈ではなく、気分の問題である。なぜかは解らないが、多分動物の帰巣本能のようなものかと思われる。私は、長野県の農村で生まれ育った。子供の頃に見た景色にはいつも山があった。その頃、満州には、広い平野があり、「地平線に日が沈む」、などと聞いて地平線を見たいと思った。また、はじめての海で水平線とはこういうものかと感じ入った。子供の頃、何気なく見ていた風景が影響していると推測される。

私にとり描きたい意欲が最も強く湧いて来る絵は、山そのものだけではない。山はバックであり描きたいのは田舎の風景である。大分以前であるが、向井潤吉画伯の民家の絵に出合って、素晴らしい絵だと感動した。その印象は今も心に残っている。あのような雰囲気の絵が描けたらいいなと思っている。

だからといって今後も、上に述べたように、一番気乗りのする風景だけを描いて行けるわけではないし、もし可能だったとしても、その範囲だけでやっていたら、もっと変ったものも描いてみたいと思うようになるだろう。だから、気乗りのする題材を描くのを重点としながらも生活の場の中で可能な範囲で、色々な機会をとらえて種々の対象を描いて行く事が良いと思う。それが創作力を養う上でも必要なことだろうと思っている。

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