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展覧会

リレー随筆 第12回  

老化と闘う - 萩原 茂 -

「絵を画くことは若さを保つ特効薬である」と昔から謂われている。
一般に、学者、思想家、芸術家など学問・学芸に携わる人にボケ老人は少ないという。特に物を書く人、描く人は何かを創造するということで、老化を自然に、しかも積極的に防いでいるというのだ。

百億個以上もある神経細胞は年毎にみるみる死滅してやがて悲しくも戻せず、おかしくとも笑うことを忘れ、また美しいものを見ても感動しなくなる。これらは全て自然に老化が進んでいる証拠であるという。

しかし、逆に美しい花や奇麗な女性や素晴らしい風景に感動しながらキャンバスに向かっている時は老化の進行は妨げられているというのだ。残った脳機能、特に右脳がフルに働いていて懸命に老化の進行を防いでくれているというのだ。

「昔、絵と詩(うた)は姉妹の芸術と謂れ、詩は有声の絵であり、絵は無声の詩であると教わった。だから著名作家の秀でた作品の前に立つと、溢れ出る詩情に心が震えてしばし昔を忘れることがある。」これは卆寿を前にした大先輩がふと私どもに洩らした言葉である。いつまでも絵に対する情熱を持ち続けられたこの大先輩は、作風も常に若々しく、その骨太で力強いタッチと色彩は、「美」を追求する若き画学生の作品そのものであった。いくら年を取っても絵の情熱が若さを保つ特効薬になっているなんて本当に素晴らしいではないか。

私もいつの間にか傘寿を迎え、フィナーレの緞帳もそろそろ降りてきそうになっているが、確かに絵の世界に入って、今度の展覧会には何を、どういう風に描こうかとか、試行錯誤を繰り返していると、いつの間にか、自分が人生の剣が峰に立たされていることを忘れてしまう。そして又この世界の中で、同じ「美」を探究している仲間達と本音でモチーフのあれこれを語り合ったり、また互いに自我自賛し合っている時は正に青年そのもので、そこには「老い」の影すらもない。今更ながら私はこの世界の門を叩いて本当に良かったと思っている。

これから幕が降りるその日まで、ボケることなく、仲間達と楽しく語り合いながら絵を画き続けられたらどんなに幸せだろうと思っている。ただ私にとって一つ心配なことがある。それは「若さ」が頑張ってくれるのは嬉しいことに違いないが、肝腎の身体の方が日増しに衰えて、ついて行けなくなる日も近々ありそうに思えてくることである。これが今私が持っている唯一の心配である。

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